第61章 大正“幕引”ー中ー
そこまで話してようやく行冥が動きを見せた。
いつものごとく、涙を流していた。
「……楽になりたいから、私は鬼舞辻を殺したい。アイツがいる限り、私に本当の夜明けは来ない。」
「ああ、私も…同意見だ。」
「安城殿は…ずっと長く柱だった。まだ童だったお館様を可愛がっていたという話を聞いたわ。お館様のためにも、鬼は斬る。」
私達はしばらく身を寄せ合って、二人で話していた。
鬼の話や昔の話、いろんな話をした。
「…行冥は何でも話を聞いてくれるし、つい話し込んでしまうわ。」
「良い。お前の話は楽しい。」
行冥がにこりと微笑む。私はうんと伸びをした。
「疲れているのか。」
私の顔をなぞる。目が見えない彼は触って確かめてくることが多い。
「お前は目が大きいな。鼻もすらっとしていて、唇も柔らかだ。」
「ふふっ、くすぐったい。そういうあなたは、たくましい顔をしているわよ。」
時には触れ合って、お互いの存在を確かめ合う。
その時間が私は好きだった。
「……先の任務、気をつけるように。…帰ったらまた話をしよう。」
「ええ。」
私達は微笑み合い、名残惜しくも体を離した。
安城殿は必ず私が斬る。
死者は死者だ。生き返るはずもない。
安城殿は私を救ってくださった。
私も、救わなければ。