第61章 大正“幕引”ー中ー
「骨董屋にはいくつか趣味の悪そうな茶器が並ぶだけでしたが、明らかに様子のおかしい壺がありましたので、私は迷わずそれを斬ろうとしました。」
私は当時のことを思い出していた。
「…ここで、何が何でも叩き斬るべきでした。」
壺は斬れなかった。中から鬼が出てきたから。私は攻撃を受けて吹き飛ばされ、激しく壁か何かに体を打ち付けた。
「鬼の正体は上弦の鬼でした。私は応戦するのがやっとで、何もできませんでした。」
あの時のことは今でもしっかりと思い出すことができる。
「私が鬼相手に苦戦していると、安城殿が駆けつけてくれました。安城殿一人なら、きっと勝てたのだと思います。安城殿は、血鬼術にやられた私を守ってくださいました。血だらけの体で、最後の力を振り絞って私を助けてくださいました。」
あの夜を生き延びたのは私だけだった。安城殿は…。
「毒に蝕まれ、私はうまく動けず、鬼を逃してしまいました。鬼にやられた安城殿を運ぼうとしましたが、安城殿は置いていけと私に言いました。自分の死は、他の誰とも変わらない死だと。だから、何も思うなと。」
どんどん冷たくなる。体は力をなくしていく。
「……そして、可能性のある次世代に…後世に、下の子に繋ぐようにと、教えてくださいました。」
最後の最後に、大切なことを教えてくれた。
「………私が死なせてしまった。」
安城殿は強い人だった。
「私に繋いでくれたのだから、生きねばならない。前を向き、繋ぎ止められたこの命を抱えて眠ることなく生きなければならない。」
私はぎゅっと唇をかんだ。が、すぐに力を抜いた。
「…そう思っても、心苦しい。許されたい。許してほしい。」
私は泣きたいのを堪えた。泣かない。過去の私は泣かなかった。ずっと笑っていたんだ。
「………もう、楽になりたい。」
最低なことを言っているのはわかっていた。
前世の私も弱音を吐いた。
…いくら別人とはいえ、やはり言動が似たり寄ったりだ。