第61章 大正“幕引”ー中ー
お館様が退出されたのち、私は立ち上がった。
「おい、霧雨さん。あんた一人でいいのか。」
不死川くんに呼び止められた。
「……構いません。今夜には、目撃証言のあった場所へ向かいます。…継子もいますから。」
「継子を連れて行くんすか!?それなら俺を連れて行けよ!」
いや宇髄くん、あんた私の担当地区任されてるでしょ。
「すみません、相手が安城殿だと思うと…。」
「そんなに強いのか?」
「それは、俺らが守ってもらわなきゃなんねえほど弱いって言いてえのかァ?」
不死川くんが怒気を含んだ声で言う。
「……そう言っているわけでは…」
「じゃあどういう意味だよ」
私は言い返せなかった。
きっと安城殿を前に皆必死に闘うだろう。味方だとあんなにも頼もしかった人が敵になるのなら、どれほどの被害があるか…。
「やめろ、不死川」
口を挟んだのは行冥だった。
「そう判断したのならばそういうことだ。それに、お館様がお認めになられたのだ。お前が何かを言う資格はない。」
不死川くんは黙った。そこで私は退室することができ、行冥もついてきた。
「少し話がしたい。良いか。」
そう言われたので、私は二つ返事で了承した。
いつぶりだろうか。
行冥の屋敷にはここしばらく来ていなかった。
「」
名前を呼ばれた。畳の上に座る行冥はそっと私に手を伸ばした。それに誘われるように体を寄せた。あの大きな手が私の頬を撫でた。ああ、懐かしいな。この感じ。
「……しかし不快なことをする鬼もいたものです。」
私はふう、とため息を吐き出した。
「……あれは何年前になるでしょうか。私は、とある骨董屋にて人が次々と人が消え去るという噂を聞きつけて、そこに向かったのです。」
勝手に話し出した私を咎めることもせず、行冥は話を聞いてくれた。