第61章 大正“幕引”ー中ー
「待機!!!」
私は叫んだ。無一郎くんにははやかったかもしれない。
「動いたら、反対の頬もぶっ叩きます」
そう釘を刺して、私は鬼の気配を探った。
ここで斬らなければならない。これ以上野放しにはできない。人を食えば食うほど鬼は強くなる。斬れなくなる。
「ああ、クソッ!!」
右腕が痛い。地味に深いし。
懐から布を出し、グルグルに巻きつけて止血する。
あの鬼はいきなり現れた。瞬間移動か何かだろうか。いや、気配がうっすらと当たりに残っている。ならば姿を消して移動するだけの奴だろう。
私は全力で走った。一晩二晩走っても走っても疲れなかったんだ。大丈夫。
「見つけた」
私はぐっと踏み込んだ。
「霞の呼吸、肆ノ型、移流斬り!!!」
大きく斬りあげる。鬼がようやく姿を現した。断末魔をあげる。
頚が斬れていない。もう一度。
「はっ、愚か者!!」
鬼がにやりと笑う。
「大切な者はとっておかないと」
なんの事だろうか。私は咄嗟に判断できなかった。
奴の全身が見えた。絵巻物で見るような龍に似た姿をしていた。
長い長い体。その尾に何かを巻きつけていた。
「…無一郎くん!?」
まさかの事態に私は驚愕した。無一郎くんだけでなく、先ほどの隠も巻き付けられていた。
鬼がニタリと笑って二人を締め付けると、嫌な声が上がった。
「私の体は長いからねえ。どんな奴も気づけないんだよ。自分を責めなくても良いよお。」
鬼はニタニタと笑う。
私はぐっと刀を握る手に力を込めた。
「私はねえ、双子を食べるのがだあいすき。かたっぽ食べてかたっぽ残すのさ。そしたらね、残された方はぎゃあぎゃあやかましいんだよ。自分も殺してって言う。でも殺さない。生かしてあげる。私はね。私は食べないの。私、優しいでしょおお??」
鬼は話し続けていた。
「動くんじゃないよ。動いたらこいつら締め殺すよ。」
私は物言わぬ木のように黙ってじっとそこにいた。