第61章 大正“幕引”ー中ー
残った片割れは食らわない、か。
でも双子は必ず揃って失踪する。
ならばこいつ以外にもう一体いるな。残された片割れを食う鬼が。
「まあ、動かなくても締め殺すんだけどねえ!!!」
鬼が相変わらずニヤニヤ笑う。
二人を締め上げようとしているのがわかった。
「伍ノ型、霞雲の海ッ!」
鬼が力を込めようとしているのが気配でわかる。
その前に長い体を叩き斬る。
「なっ、はや…」
二人が解放された。
「無一郎くん!!その方を守りなさい!!」
私が叫ぶと、無一郎くんは構えて瞬時に言う通りに隠の人の前に立った。
「霞の呼吸。」
鬼の頚を斬り落とした。
「無一郎くん!!鬼はもう一体います!!私はここを離れます、何かあれば烏を飛ばしなさい!!」
「はい!」
元気な返事を聞き、私は再び走る。側にガラスが降りてきたので、無一郎くんにつくように伝えた。
少々まずい。今は夜とはいえ、一般人がいないわけではない。それにまだまだ夜明けまで遠い。
しばらく離れたところで、ガラスが飛んできた。
「おい!!小僧が鬼と鉢合わせたぞ!!姿が見えなかったから小僧は気づかなかった!!」
なんと間の悪いことか。私はとんぼ返りする羽目になった。
鬼と対峙する無一郎くんを見て、早く助太刀せねばと思った。
しかし、私はピタリと立ち止まった。
無一郎くんが飛ぶ。技を繰り出すその姿は、階級が癸とは思えないほど。
『剣技の才に恵まれた者を見ると、安心するとともにむかっ腹が立つ』
まるで走馬灯のように、氷雨くんが過去にぼやいていた言葉を思い出した。何を言っているんだろうと思った。氷雨くんもまた、私と同じく恵まれなかった者だ。生まれ持った不思議な力以外は何も持っていなかった。
その言葉の意味がよくわかる。
天才というのは、こちら側の努力や苦しみを嘲笑うかのように、私たちを焦らせてくる。
何年とかけてもたどり着くことのできない領域に、いとも簡単にその手を伸ばす。
「弐ノ型」
八重霞。
私は立ち尽くして、彼が首を斬る様子を見ていた。
ついさっき私が叩いた頬が、痛々しく腫れ上がっていた。