第60章 大正“幕引”ー始ー
手がボロボロになるまで刀を握らせた甲斐もあってか、無一郎くんは何も忘れてはいなかった。
「すごいですね」
しのぶが縁側に座る私の横で刀を振る無一郎くんを見ていた。
「まさか、三日ほどで常中を覚えてしまうとは思いませんでした。」
「ええ、すごい子です。焦ってしまいますね。私よりも強い。」
そう言うと、しのぶは驚いて私に視線を投げました。
「たまに、ハッとするほど私の先にいることがあるんです。あの子は、恐らく天才というべき人間なのでしょうね。まあ、そんな言葉では片付けられないほど努力家であるのですが。」
「……霧雨さんでも、そんなことを思うんですか。」
「……?いやね、しのぶ。私もただの人間ですよ。」
私が笑っていうと、またしのぶは驚いていた。
「天才の前で、無能は立ち尽くすのみです。」
「無能?あなたが?」
私は庭を眺めた。無一郎くんはまだ動いている。
いい加減気付いていたことだ。
私は、生まれ持ったこの不思議な力以外は、何も持ち合わせていない、ただの人間であることを。
「……そろそろ潮時でしょう。」
私は眩しい太陽を見上げた。
もうすぐ。
もうすぐ。
もうすぐだよ、桜くん。