第60章 大正“幕引”ー始ー
昔よくやったな。
だいたい皆とやった。薬湯じゃなくてただのキンキンに冷えた冷たい水だったけど。
安城殿は反射神経が異様に高くて、どんなに病み上がりでも誰よりも何よりも速くて、気配で動きが読めているのに勝てなかった。
氷雨くんとはほぼ互角で、たった一回だけぶっかけららたことがあるだけだ。お互い相手の動きが読める者同士、なかなか決着がつかなかった。
桜くんはすごくこれが苦手で、始まった途端にもうびしょ濡れだった。けれど百回に一回くらいは奇跡的な動きを見せた。安城殿を濡れ鼠にしたときは度肝を抜かれた。
優鈴は可もなく不可もなく。たまに力加減を間違えて湯のみを破壊したり、手を滑らせて湯のみをぶん投げて怪我人を増やしたりしていた。
あぁ懐かしいな。
懐かしい懐かしい…。
「………。」
私はびっしょりと濡れながら過去を思い出していた。
このカナヲという女の子、恐ろしいほど何も感じられない。無感情だ。全く読めない。
その隣で無一郎くんも濡れていた。
「あ、あの…霞柱様、休憩いたしますか……?」
「いいえ。」
…この子、薄くだけど呼吸を使っている。しのぶはこれを知っているのだろうか?見たところ隊士でもなさそうなのに…。
「続けましょう。」
あぁ、少し下に見ていました。油断していました。
舐めてはいられません。これは機能回復訓練。過去のことを思い出して。安城殿より強い人なんていないんだから。
感じられなくても良い。見れば良いんだから。
私はグッと集中した。
「………」
私はサッと湯のみに手を置いた。その上からカナヲさんが手を置く。驚いたのが気配でわかった。
なるほど。
この子、目が良いんだ。視線がどこに飛んでいるかを読めばぶっかけられるのは防げる。
その後、私が濡れることはなかったが無一郎くんはずっとびしゃびしゃだった。
途中で休憩がてら服を乾かしに外へ出ていった。私もそれについていった。