第60章 大正“幕引”ー始ー
次の日から機能回復訓練に参加した。
「まずは柔軟からです」
思えば、蝶屋敷での機能回復訓練に参加するのは久しぶりだ。
「じゃあ行きますよ」
小さな女の子達が三人、私に近づく。隣に無一郎くんがいた。
ボーッとしていたが、確かに私をみていた。
しかしこれがとんでもなくて。
いっっっっったいのなんの。
マジ無一郎くんいなかったら悲鳴あげてるしもう泣いてる。ていうか待って待って私の腕そんなに曲がらないからいててててて。
「じゃあしばらく休憩していてください」
「お次、時透さんですね」
無一郎くんは泣き叫びやしないだろうか。
けれど、彼は何も言わずにただ柔軟を受けていた。
うつむいていて顔が見えなかったが、気配で痛がっているのがわかった。
終わったあと、私がそっと手を伸ばしてやると、無一郎くんはぎゅっと私の手を握った。
「…大丈夫?」
私が笑いかけると、無一郎くんは頷いた。
「痛くても僕はすぐ忘れるので大丈夫です」
続けてそう言う。
「痛みは…忘れられないものですよ」
私が言うと、無一郎くんは私を見上げた。その小さな手を広げると、豆やタコがあった。
「忘れても、いつか思い出します。だから、君は今日の痛みも、いつかの痛みも、全てを抱えていくのですよ。」
「……思い出せるんですか。師範も、痛いんですか。」
「ええ。」
私はぎゅっと、胸をおさえた。
「……………とても痛いです。」
無一郎くんは不思議そうに見ていた。怪我もしていない、病気でもない。
この子は、心の痛みを知らない。
「続いて反射訓練です」
「薬湯をかけあいます」
「湯のみを持ち上げる前におさえられると湯のみを動かせません」
そして、無一郎くんの相手はアオイ、私の相手はカナヲという女の子になった。