第60章 大正“幕引”ー始ー
まさかと思って振り向くと、無一郎くんが寝台から落ちていて、床を這っていた。
「何をしているんですか!!」
しのぶが慌てて駆け寄る。
「し、しは」
無一郎くんが手を伸ばす。
他の誰でもない私に。
……何でだ。
「師範、待って」
何で。私の制止をふりきってまで無理に選別に行ったことも覚えてないんだろうに記憶にないんだろうに。
何で。
私の存在は覚えている何で私に対する罪悪感を覚えている。
「師範…!!置いていかないで……ッ!僕も連れていって、もう、悪いことしないです、だから、僕も…!!」
私は理解ができなかった。
何で。
何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で。
何で。
「霧雨さんッ!!!」
しのぶが私に叫ぶ。
私は呆然として、放心状態で、何もできなかった。
『わからなかった』
『わからなかったです』
『わからなかったのです』
『あんなにも、人から求められたことなどなかったので、わからなかったです』
『側にいてくれない辛さも、置いていかれる寂しさも、仲間達が死んで今となっては痛いくらいにわかるのに』
『君が私を呼ぶ理由が、わからなかったです。』