第60章 大正“幕引”ー始ー
そろそろ一ヶ月がたとうとしている。
戻れない。私はこのまま大正時代の時間を過ごすのか…!?
だとしたらもう死ぬ。もうすぐ死んでしまう。
現実でも死んで夢の中でも死ぬとか何!?私どうしたらいいの!?
「霞柱様、あの、お茶どうぞ」
機能回復訓練のため昼頃蝶屋敷にやって来た。そこで少しもてなしを受けて、私は無一郎くんの様子を見に行った。
「あぁ、霧雨さん。ちょうど良かった。」
しのぶが私を見て微笑む。
気配でわかっていた。
「師範……ッ!」
無一郎くん。
やっと包帯が外れたらしい。けれど、まだ傷跡は残っている。まあすぐ消えるかな。
「…あの……」
私は黙ったままだった。
しのぶがそんな私達を不思議そうに見ていた。
「……………ごめんなさい」
無一郎くんはぎゅっと布団を握りしめた。
「…僕…何も覚えてない、です。覚えてないですけど、とっても師範に謝りたかったです。」
無一郎くんが顔をあげる。私は視線を剃らした。
「私、怒っています」
そうしないと話せる気がしなかった。
「死んだらどうするのですか。命を何だと思っているのですか。」
私はぎゅっと拳を握りしめた。声に怒気を混ぜた。感情に任せてその場に立っていた。
「………ごめんなさい…」
無一郎くんは手を震わせてそう言った。
「霧雨さん」
しのぶが私達の間に入る。
「もう、よろしいでしょう。この通りです。まだ怪我も癒えたばかり、目も覚めて数刻…。この子の体にさわりますから。」
私はふっと無一郎くんへの威圧を解いた。
無一郎くんはとたんに咳き込み、胸のあたりを抑えて激しい呼吸を繰り返す。蝶屋敷の子供達が慌てて介抱にあたっていた。
「………しのぶ。今日は帰ります。」
「……わかりました。ですが、明日は必ず訓練を。」
私は頷いた。
「し…ッ、師範…!」
無一郎くんの声がした。
バタン、と大きな音がする。悲鳴と子供達の足音がした。