第8章 言葉
今夜はちゃんとベッドで眠れる。
実弥の隣に寝転ぶ。
昨日はこっちを向かなかったくせに、今日は普通に隣で上を向いて寝ている。
「何だよ」
「え、起きてたの」
じっと寝顔を見ていたらパチリと目を開けてしまった。
「実弥の顔ってタイプじゃないけど見ていて落ち着く顔だなって思ってた。」
「タイプじゃないは余計だ、バカタレ」
実弥は天井を見るだけで動かない。
執拗には近づいてこない。いつもピタリと動かず、眠るだけ。
「綺麗な顔は好きだけど、目に見える顔だけじゃ決められないことってあるよね。実弥だってヤクザみたいな目をしているのに優しいんだもん。あ、ここペット禁止だから雨の中捨てられた動物拾ってこないでね。」
「誰がヤクザだ。あと拾わねえよ。」
「本当は拾いたいのに私との約束守ってくれるの好きすぎて無理。」
実弥はバッとかけ布団で顔を隠した。
…照れてやがる。はちゃめちゃに照れてやがる。
「お前、何で最近好きだの愛してるだの言ってくるんだよ……。」
そしてくぐもった声で聞いてきた。
私は好んでこの言葉を言わなかった。けれど、あの夜から積極的に言うことにしている。
せめて、実弥には、私の気持ちくらいは伝えたいから。
「好きだし愛してるから。」
躊躇なくそう返すと、実弥は黙った。寝たふりをするらしい。
それにかまわず、私は実弥が被る布団の上にダイブした。
「うっ!!お、お前…!」
「ね~実弥く~ん!!お話ししてくれないと寂しくて死んじゃうんですけど~!!」
「あああうぜえ!!お前今日何なんだよ!!」
しばらくもみくちゃになっていたが、やがて実弥がぷんぷん怒ってふて寝したので、私もやめた。