第8章 言葉
朝風呂をすませるころには実弥はいなかった。
あーあ、照れちゃって。
私はバキバキの体を少しほぐして、仕事に取りかかった。
とはいえ、ずーっと仕事をしているわけでもなく、今朝の実弥をデフォルト化して描いて、SNSのプロフィール画像にしてやった。プロフィールに書き込める一言の部分に、『リス川実弥』と書いておいた。
昼頃に実弥から抗議の文面と、仲間内からの冷やかすメッセージが来ていて、ざまあみろって鼻高々である。
そして、夜に帰ってきた実弥がやたらと私の好きなお菓子やケーキばかり買ってきて、
「ごめん」
と謝るので、夜には直してあげた。
「えへえへ、やったあお菓子とケーキ、えへえへへ。」
「お前、調子いいな…。」
「でも、今回は私が原因だから、私からもあげる。ごめんね。」
私は実弥に箱を差し出した。
「なんとおはぎでーす。近くの和菓子屋のでーす。」
「…マジで?」
「マジマジ。」
実弥は箱を開けて感嘆の声をもらした。
奮発して三つも買ってやった。
「……おはぎ、お前が作ったのが上手いけどな。」
さっそくもぐもぐと食べながら、実弥はそう言った。
「えっ、だって私の料理おいしくないじゃん。」
「おはぎは上手い。」
「え~知らなかった。おはぎねえ…。中学までは作ってたけど、余計なもの作らないでおこうって思って作ってなかった。」
「あんなに米がつぶれてて砂糖の味しかしねえあんこのおはぎはなかなかねえ。」
「……ごめん、まだ怒ってる?」
「怒ってねえよ。」
実弥におはぎの二個目に手を出し、不思議そうに呟いた。
「でも、うまいんだよ。」
理屈が通っていない、意味のわからない言葉。
けれど、私はそれがとても嬉しかった。