第8章 言葉
申し訳なさのある関係に何の意味があるのだろう。
たまに、本気でそう思ってしまう。
実弥はあの夜のことには何も言ってこない。
もう限界だと思った。本気でダメだと思ったのに、ダメにならなかった。
今横で寝ている、実弥がそれを望んだから。
でもお互いがお互いに遠慮をしたこの現状に、何の意味があるというのだろう。
こんなことを聞いたら、君は怒るかな。
私が浮気でもしたら、この関係は終わるかな。
でも、君がね、優しすぎて、いい人すぎるからさ。他に誰もいないの。ていうか、こんな私と一緒にいてくれるの、君だけだから。
終わったらどうなるんだろう。幼なじみでもあったから、その関係も終わるのかな。
………最低だなあ。
それでもかまわないって、実弥は言ってるのに、それじゃあ私は満足できない。申し訳なくて申し訳なくてたまらないの。
実弥が嘘をついていないのはわかる。けど、けど。
私は納得できない。
でもワガママ言ったらダメだよね。実弥は優しいから、きっと苦しむ。ううん、本当は苦しんでた。だからあの夜にそう決断した時、ホッとしたような顔をしたんだ。
わかってる。
私は全てわかってる。
わかった上で、知らないふりをして、隠して、隠して、隠す。
どうか、全て、暴かれることのないようにと祈りながら。
このギリギリのバランスを保って続いている関係を断ち切らないように。