第55章 大正“浪漫”ー漆ー
十数年ぶりの汽車に乗ってずっと南へ向かう。
まだ鬼殺隊に入りたての頃、一度だけ氷雨くんと乗ったことがあった。
『氷雨家の書斎には、海が見える窓がありました。ずっと南で氷雨家は栄えたのです。』
汽車の窓を指差しながら彼は言った。
『ウミ…とは……何なのですか』
そう訪ねる私に氷雨くんは笑った。
言葉では言えないと、困ったように笑っていた…。
「ずっと…南……」
私はできる限り南に下り、汽車を降りた。
ずいぶん乗ったと思ったがそれでもそこはまだ東京で、昔と今の技術の差が伺える。
「……っと、氷雨くんは…。」
駅で気配を探る。人が多いと難しいが、全くしないわけではない。
…たどり着けるかもしれない。
やはり、鬼殺隊を引退して氷雨家に戻っているという読みは正しかったようだ。
私は駅から出た。
「…海」
見えるわけではないが、ほんのりその偉大な存在を感じる。
私は氷雨くんを探すために力強く歩きだした。