第8章 言葉
『阿国』
『すまない、すまなかった』
『もういいんだ』
声が。
声が聞こえる。
『阿国』
誰…。
誰なの?私、その“阿国”とかいう人じゃない。
……誰?
「おいッ!!!!!」
怒鳴り声が聞こえて、目を覚ました。背中と足が痛い。
「お前は昨日から…ッ!!!な~に~が~し~た~い~ん~だ~?????」
「……わあ…。」
私は寝る場所がなかったので、とはいえ寝たかったので、リビングのテーブルの下にいた。
落ち着く場所を探すために色々練り歩いたが、ここだった。ちなみに私の部屋は仕事場でもあるので落ち着けず、眠れない。
「もう朝~?はやくな~い?」
「仕事だっつってんだろ!!!」
「すごく仕事熱心。好き。」
すると実弥は黙った。青筋を立てたままにっこりと満面の笑みで笑った。
「寝起きの顔も可愛くて大好きだぜェ。」
………。
……………。
しばらくの沈黙のあと、実弥は静かに朝ごはんを食べ始めた。
「ちょっと、自分で言って照れないでよ!なんか私まで恥ずかしいじゃん!?」
「うるせえ…黙れ…」
「バカなの!?おバカなの!?」
実弥は真っ赤になってパンを食べていた。
「………こんな可愛い実弥いるのに浮気する彼女っているのかな?いないよね?はっ、その彼女私じゃん!?」
「黙ってくれ、俺が悪かったから、黙っていてくれ…」
「可愛い愛せる。ていうか愛してる。」
「………おぉ…」
実弥にはリスみたいになってる頬に、無理にパンを放り込み続けた。