第54章 大正“浪漫”ー陸ー
「継子は鬼を斬れるのか」
行冥が眉を潜める。
私は首を横に振った。
「呼吸を会得しただけ。それ以外は何も教えてないの。」
そうすれば、あんなにはやく柱になることもなかった。
けれど。
昨日の晩、阿国は信じろと言った。
…だから今は信じることにした。
それでも師範という立場から言わせてもらえば言いつけを守らなかった弟子を側に置くつもりはない。
…前世でもそうだった。…無一郎くんってどうやって選別から帰ってきたんだっけ?ああもう覚えてない。
「この短期間で呼吸を会得したのか」
行冥が言う。
「………無茶言って追い返すつもりだったけど、まさかまさかで私の無茶ぶりに答えちゃったんだよねぇ…。」
私はため息をついた。
「あんなに一生懸命に答えられたら追い返すわけにもいかない…と思ってたんだけど。」
「……」
「もうあんな子知らない。」
頬を膨らませて言うと、行冥はポンポン、と頭を撫でてくる。
「………一先ず私は帰る。何かあれば私の屋敷に。」
「ええ。色々とありがとう。」
「会えると良いな、その氷雨という人に。」
行冥は少し微笑んで私に振り返り、そのまま帰っていった。
私は無事な部屋の中で静かに手紙を書き、それが終ると庭に出た。
「ガラス、いるんでしょ。出ておいで。」
そうして声を出すと、庭の木に止まるガラスがいた。行冥が帰る頃には戻っていたらしい。
「何だ。」
「これを本部まで。」
「あぁ?手紙か?報告書はどうした。」
「出さない。」
「あ?」
ガラスが鋭く反応する。
「もう出さない。いらないから。」
「………何を…。」
「そのうちいらなくなる。」
私はどうせすぐに死ぬ。
…もう私の報告書はいらない。
「この手紙だけ、あなたに頼むわ。ガラス。」
「………。お前、何をする気だ。」
ガラスの足に手紙をくくりつける。
「ひ、み、つ。」
私が軽く嘴に触れると、ガラスは嫌そうにしてそのまま飛んでいった。