第54章 大正“浪漫”ー陸ー
行冥が大きな木片をどかす。
「氷雨くん、とは誰だ?」
「え?」
あれ、知らないんだっけ。…そうか。氷雨くんが引退したのは10年以上前。行冥が知らなくて当然だ。
「氷雨くんは……」
鬼殺隊とは関係を断っていたから、引退してからは私も会っていない。
「私の従兄弟。」
「……!家族がいるのか?」
「…とは言っても、分家の方で仲良しとは言えぬ仲だった。」
話しながら、私達は全壊の屋敷を片付け続けた。
「はじめは驚いた。再会したらお互いに鬼狩りなんだから。」
「では、鬼殺隊だったのか。」
「ええ。私の…二倍年上の人で、柱だった。」
私は一番大きな木片を持ち上げた。
「上弦に足を喰われて引退した。」
その下に、昨日まとめて書き上げた報告書が出てきた。少し汚いけれど多分…まあ提出しても良いはず。
「………その後、仲間の葬式で会ったきりよ。」
引っ掛かって持ち上がらない木片があったので足でかち割った。
「……もう…10年以上前になるわ。どうしているのかしら。」
「……生きていらっしゃるのか?」
「そう思う。でもどこにいるのかもわからないし、探さなきゃ。」
「お館様はご存知ないのか?」
「…それが、誰も知らないんだ。」
産屋敷に足を向けて寝るような態度を取っていた氷雨くんが本部と連絡を取っているとは思えない。
それに、もう彼を知る人物は数少ない。
「…ならばここには帰らないのか。」
「ええ。」
あらかた片付けた後、全壊した部分は消え去り、損傷の少ない部分が残った。とってもみすぼらしい。
「やっぱり直すのは良いわ。本部に頼んで処分してもらおうっと。」
「良いのか。」
「良いわよ。……継子も帰ってこないだろうし。」
私が言うと、行冥は首をかしげた。
「そう言えば、継子はどうした。いや、直接話したことはないが今日は気配がしないと思ってな。」
「勝手に家出して選別受けに行ったのよ。」
そう言いながら、意味もなく足元の木片を踏み潰した。
行冥は音には驚かず私の言うことに驚いていた。当たり前だな。