第54章 大正“浪漫”ー陸ー
行冥が心配だと言うので屋敷の前までついてきた。
門に憎たらしくガラスが止まっていた。
「おはよう。あのあと確認したが、小僧は今頃山の中だぞ。」
「ありがとう。もう行っていいよ。」
私は睨み付けてそう言った。
「………お前が悪いんだからな。」
ガラスが羽ばたく。
前世では何のことかわからなかった。けれど、ガラスが冷たくなったのは…。
私の秘密のせいだ。
「…喧嘩でもしたのか?」
「ちょっと。」
私は屋敷の様子を見てため息をついた。
「めっちゃくちゃだな…。」
「む?屋敷がか?」
「うん。もうこれどうしようもないわ。」
鬼に襲撃を受けた部分はもう全壊だった。ここまでになったらどうにもできない。
「まあ……これは?これで?アグレッシブにビューティフルでアバンギャルドなのでは。」
「…??お前の言うことはわからん。」
私はこれを芸術作品として受け止めることにした。大学時代に教授が下手な作品をほめるときに使ってた言葉で解決しておく。
「ひどいのなら隠に頼めばどうだ」
「私は頼んでも無駄だから…」
「……私から言っておこう。一先ずは私の所に来ると良い。」
まあ行冥の言うことなら聞いてくれるのかもしれない…けれど、私がいると何もしてくれないだろう。
「………そうね。お世話になりたいけど。」
私は屋敷だった木片に手を伸ばした。
「いいわ。やりたいことがあるし。」
「やりたいこと?何だそれは。」
ゴトン、と音をたてて大きな木片を持ち上げる。
「まあ、とりあえずは片付けるわ。」
それを適当にぶん投げた。
その隣で行冥がもっと大きいのを持ち上げる。
「また秘密か?」
行冥が言う。
私はうつむいた。
「………氷雨くんに、会いたいの。」
昨日阿国と会ったときに思い出したのだ。
『……その“阿国”という人物、何だか聞き覚えがあるんですけどね。』
『うん、人づたいに聞いたんですよ。だれでしたかな。恐らく前世で、なんですけど。』
春風さんは阿国についてこう語っていた。
今が夢の中ならば本当の過去でないのなら。
多分大丈夫なはず。
映画の中じゃバタフライエフェクトだなんていうけれど、ここは夢の中…だから未来は変わらないはずだ。