第53章 大正“浪漫”ー伍ー
私は目を開けた。
目の前にすやすやと眠る無一郎くんがいた。
気配がする。人間の気配。今は体内時計からして…まだ朝。鬼ではない。
この気配、馴染みがある。別に心配しなくていいや。私は再び目を閉じた。
「何を呑気に寝てやがる!!起きろォッ!!!」
が、なぜか盛大に叫ばれて否応なしに目を覚ました。
むくりと起き上がる横で、何事かと無一郎くんが飛び起きた。
庭に誰かいる。戸を閉めているから姿が見えないが、声と気配で誰かはわかる。
「……師範…。」
「大丈夫、大丈夫。寝てていいよ。」
無一郎くんを寝かせようとすると、ぎゅっと私の隊服をつかんで離さない。
明らかに怯えているようなので、無理に引き離すことはしなかった。仕方なく私にしがみつく無一郎くんをそのままに戸を開けた。
「ッチ、やっと出てきやがったかァ」
形相と態度とついでにガラが悪い。
目の前にいるのは敵意むき出しの不死川くん。
私は大きく息を吸って吐いた。
落ち着け。
落ち着いて、私。この人は実弥じゃない。不死川くん。別人。
「あら、お待たせしました?」
「あぁ…?」
不死川くんが動揺を見せる。
私にしがみつく無一郎くんに気づいたらしい。
無一郎くんは私に隠れるように後ろに回り込んだが、不死川くんのことは顔を出して見ていた。