第53章 大正“浪漫”ー伍ー
無一郎くんの足を治療し終えた。呼吸も落ち着いて、無一郎くんが起き上がった。
「何でわかるんですか」
食いぎみな様子に、珍しいと目を見張った。
「僕と同じです。何でですか。」
「それは、あなたが私と同じだからです。」
私は彼の手を握った。
皮がめくれて出血した手は痛々しい。けれど、確実に皮膚が固くなっているのがわかる。
私はその小さな手の隣に自分の手を広げた。豆だらけ消えない跡だらけの汚い手だ。
「すぐにこうなります。ほら、固いでしょう?」
「…本当だ。」
無一郎くんが私の手をむにむにと触りながら言う。
私はその手にも治療をしてやった。
「私もそうでした。何をしたらいいのかわからなかったので、まずひたすら刀を握って、ただ出鱈目に動きました。本当に君と同じなんですよ。」
私は小さな手に包帯を巻き付け終わり、手を離した。
「二日目の朝でした。」
無一郎くんの目を見ないで、ただ何もないところを見つめた。
「私は呼吸を会得していました。今の君のように、足も手もボロボロでした。」
「……。」
「呼吸は体に負荷をかけます。今日はもう休みなさい。」
私は立ち上がった。無一郎くんはふらりと再び倒れた。今度は眠っていた。
「……お疲れ様、無一郎くん…」
穏やかな寝顔に語りかけた。
その隣に私も寝転んだ。
「あのね、過去の自分と君が重なったんだと思うの。何もわからないまま鬼殺隊として生きることは簡単じゃない。」
私は記憶がなかったわけではない。
けれど日常生活が送れなかったのは無一郎くんと同じだ。
私は世間知らずの箱入り娘だった。わかることよりわからないことの方が多かった。
「だからね」
私は助けてもらった。色んな人に色んなことを教えてもらった。
「……君に、色んなことを教えてあげたかった。」
でも私、ポンコツでバカだから。ろくな教え方できないんだ。お風呂の入り方とか、洗濯物の畳み方とかは教えてあげられるけど。
私には師範がいない。呼吸は誰にも教えてもらってない。ただ見て、感じて覚えた。それだけだから。
同じことをさせることしかできない。この子がそれをできると信じることしか。
私は目を閉じた。
今日は私も眠ろう。