第53章 大正“浪漫”ー伍ー
太陽が登る頃に屋敷に戻った。
…鬼殺隊とて何もなければ別に休んでいても良いのだけれど、基本的にずっと外にいた気がする。これも最近思い出した。
すぐに稽古場に向かった。水桶と手拭い、救急箱を抱えて行った。
無一郎くんがいた。
稽古場…と言っていいかわからないほど、ボロボロになっていた。
かなりの力で踏み込んだのか床がボロボロだった。
完璧に足がめり込んだ痕跡が見られる場所もあった。
所々、赤いものが見えた。すぐにわかった。血だ。
真剣を握った無一郎くんがそこにいた。肩で息をしていた。
刀から手を離して、それを落とした。柄の部分が真っ赤に染まっていた。
あの真剣は私が彼にあげたものだ。お館様に頼んでおいたもの。私が先に抜刀したから既に変色している。霞の剣士のための刀。
続いて、その隣に無一郎くんがドサッと倒れた。
「刀をただ握ると、そのうち手に馴染むところがわかるようになる。」
私は稽古場に足を踏み入れた。
「握ると、刀の重みで手が痛くなる。握り続けると、痛くなったところはすぐに皮がめくれて血が出てくる。血が止まる頃には、手の皮が固くなる。その繰り返し。」
倒れた無一郎くんの側に座る。
「呼吸を見た。けれど、どうしたらできるのかわからない。だからとりあえず刀を握った。」
無一郎くんはじっと私を見上げている。
私は彼を見なかった。
「呼吸を使うときに足元から大きな音がしたから、とりあえず踏み込んだ。三時間もすると足が痛くなってくる、足の裏から出血する、これがなかなか止まらない。そのうち爪が皮膚に食い込んで、もう立つのが嫌になる。」
無一郎くんの足は真っ赤だった。
血がにじんでいて、痛々しかった。
「手も足も痛くて、そのうち息が切れて肺が痛くなる。肺が痛くて痛くてたまらなくなったら、なぜだか呼吸が楽になる。」
私は話しながら足を洗って消毒して包帯を巻いてやった。