第53章 大正“浪漫”ー伍ー
その言葉を信じたわけではない。
ただ、真意が知りたかった。
「……きっと…私はあの子を死なせてしまう…」
気づけばポツポツと話していました。
「私、これで良かったのかな…。」
しかし、変なことを言ってしまったと慌てて口を閉じた。
「っていうのは冗談…ッ!!」
と言いかけたところで大好きだったあの大きな手が優しく私の頭を撫でた。
「覚えているか、私の元にカナエとしのぶが来た頃を。」
「………え…あ、うん。」
私が頷くと、彼は続けた。
「その時、迷う私にお前は言った。“覚悟”をすべきだと。」
………言った…のかな…そんなこと…。
まずい、記憶が曖昧だ。変な返しをしたら怪しまれる…!!
「鬼殺隊に入れるにも追い返すにもその子供の運命を決める。その覚悟が必要になる。」
「………。」
「死なせてしまうかもしれない。それでもお前は教え導くのか?」
行冥の言葉に、私は必死に頭を働かせた。
「教えて、導くよ。」
私はぐっと拳を握りしめた。
「泥を這いつくばらせても、谷から突き落としてでも、私は無一郎くんを継子として受け入れる。例えどんなに拒んでも、あの子は私についてきてくれた。だから。そうしたい。」
自然と口から出た。感情のままというか、正直な気持ち。急に言葉がたくさん出て驚いた。
……前世の私も…そう思ってたのかな。
無一郎くんは何をしても私の後ろをついてくる。しがみついてくる。あの目で見つめてくる。
「……って…いう感じ、だけど。」
私は俯いた。
あぁ、覚えてる。そうだ。この会話、前世でもした。すっかり忘れてたなぁ。
「あの子が私を無邪気に見つめてくるのが、心苦しいの。」
私が弱々しく言うと、行冥は頭の上に置いていた手を背中にまわして優しく撫でてくれた。
「私も同じ気持ちだ。わかる。……カナエがそうだった。しのぶもだ。」
行冥が言う。
カナエ。…胡蝶さん。死んでしまった。あの二人を受け入れるか迷っていた行冥の背中を押したのは私だ。そんなことをしなければ、死ななかっただろうか。
「目が見えなくても…時折、そう感じる。」
私はぎゅっと彼の隊服にしがみついた。
「………苦しい。とっても苦しい。きっとこの苦しさは消えない。ごめんなさい、あの時、あんなことを言ってしまって。」