第53章 大正“浪漫”ー伍ー
その時から、稽古場でひたすら刀を振って足を動かす音がした。
私は様子を見に行くこともしなかった。
「おい、今日も任務だぞ。」
日がくれる頃、ガラスがやって来た。
私はその夜もそつなくこなし、見廻りも終えて、朝方に帰宅した。
稽古場に足を運んだ。
「……あら」
道場の中央に無一郎くんが横たわっていた。
日輪刀をしっかり握ったまま。
その側に歩み寄ると、汗をだらだらにかいて眠っていた。
「おい、お前小僧を選別に行かせるつもりはあるのか?」
「…なかったんだと思う。」
「はあ?何で過去形なんだよ。」
無一郎くんを抱き上げた。
私は前世の自分の言動を真似ているだけだ。けれど、その言動全てが間違いとは思わない。私は何度でも無一郎くんがこちら側へ来るのを拒むだろう。
部屋に戻って無一郎くんを布団の上に寝かせた。
汗をそっと拭いてやる。
私は朝日のさす部屋で座り込み、壁によりかかった。布団を無一郎くんに渡してしまったし、隣の部屋は鬼の襲撃でぼろぼろなので最近はこうやって簡易的に寝ている。
無一郎くんは強くなる。けれど、無限城で死ぬ。例え無限城で生き残ってもその後の闘いで彼が生きていられるとは思わない。
諦めるなと、彼を信じろと、きっと皆は私を叱咤するだろう。
でも、私はうるさいとそれを一蹴する。
鬼舞辻無惨は正真正銘本物の強さを誇る。無一郎くんでは倒せない。それに、その前に上弦の壱と戦闘することになる。無理だ。
未来がわかっていながら、私はそれを変えるつもりはない。
「無一郎くんは…どうしたい?」
私は眠る彼に尋ねた。
「……まだわからないかな。」
例えば君も私と同じく、未来を知っていたら。
私の元から逃げるだろうか。いやがって鬼殺隊をやめるだろうか。
「………本当に、これで良かったのかな。」
私もそこで限界で、うつらうつらと船をこいだ。
ガラスがそれを見届けて部屋から飛び出す。
どこに行くんだろう。
いいな。空を飛べるのは羨ましいな。
私はそう思って、意識を手放した。