第53章 大正“浪漫”ー伍ー
私は無一郎くんに条件を出した。
「条件は一つ。」
無一郎くんは聞き漏らすまいと真剣に聞いていました。
「今からあなたに“呼吸”を教えます。それを私が言う期間内に習得すること。」
「呼吸…?」
「おいで。」
私は無一郎くんを連れて稽古場に向かった。
「全集中の呼吸というものがあります。」
「………。」
「これなくして鬼を斬ることはできません。最も大切な基礎的なものです。」
私は常中ができるから、寝ても覚めても使っている。
「今からあなたに教えるのは霞の呼吸というものです。」
「……霞…?」
「全集中の呼吸の一種です。」
難しいことを言っても無一郎くんは忘れる。本格的な説明は省いた。
「鬼を斬るための呼吸です。これで鬼殺隊は闘うんです。」
「………。」
「今から、あなたに霞の呼吸を見せます。全部で六つあります。私は何も言いません。見せるだけです。あなたは今から一度だけ見て、全てを覚えなさい。」
私は壱ノ型から順に見せることにした。
無一郎くんを道場の中央に立たせた。
「全集中、霞の呼吸」
私は息を吸い込んだ。
疲れる。実践でさえこんなに連続して使うことないぞ。
けれど、息が切れることもない。…鍛えられてる体って感じ。ぬくぬく平和に育った私の体とは違う。
「刀が握れたら今見せた型はどうとでもなります。つまるところ、呼吸を自分のものにするか。しないか。です。」
私は無一郎くんの胸に人差し指をトン、と当てた。
「そこが、鬼殺隊への道の分岐点です。」
無一郎くんは頷いた。
「呼吸の習得期間は…。」
私は前世を思い出した。前世の私は、無一郎くんを鬼殺隊に入れるつもりなど更々なかったのだろうなと思う。
「二日とします。」
何もわからない無一郎くんは、それにも頷いた。