第52章 大正“浪漫”ー肆ー
……。まだ七日目だけど。思いの外、一生懸命やっているし。
確か前世の私も同じタイミングで思ったんじゃないかな。
「無一郎くん。あなたは今鬼殺隊ではありません。わかりますね。ただ私の元で訓練をしているだけの子供です。」
「…はい。」
「鬼殺隊に入隊するには、最終選別という試験を受けて合格しなければなりません。」
側で大人しく治療を受けていた無一郎くんがグッと前のめりになった。私を確かにその瞳に写していた。
「ッ、どうしたら、それに合格できますか!?」
無一郎くんが私に力強くしがみつく。
この子には記憶がない。無一郎くんを突き動かすのは、体と心に染み付いた鬼への怒りのみ。
彼の境遇はお館様から聞いていた。けれど、それに関しては彼に何も伝えていない。
……この鬼殺隊にはよくある話。可哀想なこの子は、何もかも乗り越えていかないといけない。
記憶がないのに、鬼を斬る。
まるで、鬼殺のからくり人形。
「七日間。」
私は指を七本たてた。
「最終選別は、七日間です。」
「七日間…」
「藤襲山という、鬼を閉じ込めている山があります。」
無一郎くんが指に触れる。どうやら数えているらしい。最近は数を覚えた。一から五十までならスラスラ言える。
「合格条件は、そこで七日間生き延び無事に下山すること。」
私が言うと、彼はしがみつくのをやめた。
「……生き延びることが、できなかったら…。」
「死にます。」
こればかりは誤魔化せないので、はっきりと言った。
「それでも、あなたは行きますか?」
私は青い瞳に問う。
その瞳が、私を不安にさせる。
死んでしまったらどうしよう。帰ってこなければ。これは本当に正しいのか。
「行くのなら…私も死人を増やしたいわけではありませんから、厳しい条件をあなたに課します。その条件を達成できなければ…無一郎くん。」
私は不安に負けず、青い目を見つめ返した。
「あなたをお館様の元へ連れていき、この子は鬼殺隊に入るべき人間ではないと話します。」
そう言うと、無一郎くんから少しの動揺が感じられた。
少し放心状態のように彼は黙っていた。