第52章 大正“浪漫”ー肆ー
「返事が遅い」
私がそう言うと、無一郎くんはビクリと体を震わせた。
「迷うなら、行くな」
咄嗟に口から出た。
そうだ。前世でもそうだった。このとき私は怒ったのだ。
なるだけ私は優しく接してきた。なので、これは初めてのこと。
怒られるだなんて初めてのことに無一郎くんは完全に萎縮していた。
「………お館様に話は通しておきます。明日にでも、行きましょう。」
私は立ち上がった。選別に行かない…鬼殺隊にならない子供をいつまでもこの屋敷に置いておくつもりはない。
座っている無一郎くんからは何も感じられない。
けれど、すぐに私の隊服を包帯が巻かれた痛々しい小さな手で掴んだ。
「し、はん」
「………」
「行きます、僕、最終選別に行きます。鬼殺隊になりたい。」
ぎゅうううっと掴んでくる。
痛いくらい。その痛みが、私を不安にさせる。
「師範、だから、僕を捨てないでください。」
無一郎くんが揺れる瞳で言う。
その言葉に驚いた。
「僕、何でもします。」
私は唖然とした。
「あの、別に捨てる訳じゃ…。」
「…だって、今……。」
「いや、あのね、私君がいらないからお館様のとこに連れていくんじゃないよ?ただね?このままだと選別で無一郎くんは死んじゃうから、厳しく言ってるんだよ??」
誤解を解こうと必死に話した。
お館様の所に連れていく…というのが、私がこの子を見限ると思ったらしい。見限ると言うか…別にそうなっても私はこの子に絶望もしないと思う。
「本当ですか?」
「は、はい」
「本当の本当?」
私が頷くと、無一郎くんは安心したように息を吐き出した。
「…じゃあ……まず、君が試験を受けるべきかそうでないかを私が見定めます。そのために、条件を出します。これができなければあなたは鬼殺隊になる資格なしと見なします。」
私は気を取り直し、再び彼の真正面に座った。
無一郎くんは意思を秘めたように、姿勢を正した。