第52章 大正“浪漫”ー肆ー
しばらく放心していたようだったが、やがてすぐに話し始めた。
「闘ったのですか…?上弦の弐と…。」
そう聞かれ、私は首を横に振った。
「闘ったのは私ではありません。…先代の水柱の方です。」
桜くん。
頭が良くて、本当にすごい子で。
……前世の私が読まなかった遺書のおかげで、私は夢に出てきた霧雨阿国について知ることができたわけだし。
………死んで、ほしくなかったなぁ…。
生きてたらどうしてたでしょうか。
いつかは霧雨阿国について私に話してくれたでしょうか。やはり、秘密として墓場まで持っていったでしょうか。例え、そんなものがあっても、あの無邪気な笑顔で、私をご飯に誘ってくれたでしょうか。
ご飯かぁ。ちょうど、今お昼時だな。お腹すいた。
……。
あ。
やば。昔話に夢中で今忘れてた。
「あの、しのぶ。べらべらと話していて…その、申し訳ないのですが私今すぐ帰りたいのですがダメですか?」
「えっ?」
「帰らないといけなくて…。」
私が言うと、しのぶはふっと吹き出した。
「ふふ、おかしな人。今になってですか?こんな状況なのに随分長話しましたね。」
笑われて、恥ずかしくなった。…すんません。私、ポンコツなんで…。
「ケガはもう良いから帰っていただいて大丈夫です。けれど、一人では帰らないでくださいね。」
「えっ?」
しのぶがついにはクスクス笑い出した。すると、入り口から気配がした。
「……?…??…?」
「もうお気づきですね?」
扉の向こうからドタドタとうるさい音がする。待ちなさい、とか。走らないでとかそんな声もまじっている。
病室の扉が開く。
そこにいたのは、青い目をしたあの子。
「……無一郎くん…!?」
私が驚いていると、彼は駆け寄ってきて、ぎゅっと私に抱きついた。
「何で帰ってきてくれないんですか」
「え?え??」
「ガラスが僕のとこに来たんだよ。あなたがいないと、僕は眠れないの。」
無一郎くんがじっと私を見つめる。
「……しのぶ…?」
「フフッ、ガラスくんが連れてきたんですよ。」
まさかのことに唖然としていると、やや遅れてきて蝶屋敷の子たちとガラスが扉の前に姿を現した。