第52章 大正“浪漫”ー肆ー
しのぶがベッドの近くの椅子に座った。
「……鬼殺隊最強と言われるあなたでも、そんな怪我を負うのですね。今回は何てことのない鬼だったとガラスくんが言っていました。」
私は体の傷をさすった。
「私は…ある人から“からくり”と言われたことがあるんです。」
「…からくり?」
「ええ。鬼を斬るからくり人形だと。」
少し昔の話だ。
幼い私は氷雨くんにそう言われた。
「その人曰く、私は鬼を斬る以外のことに興味を示さなかったそうです。怪我を放置していることもめずらしくなかったとか。」
「…随分他人事のように言うんですね。」
「私は色んなことに興味を持ってたんです。だからそんなこと言われてビックリしました。」
思えば、少しは感情表現が豊かになったのかもしれない。
鬼殺隊に入って十年と少し。……私は、色んなことを学んだ。
「…あ、ごめんなさい。いらない話でしたね。」
「いえ…。」
しのぶは何やら複雑そうな話をした。
「…確かに治療されていないようですね。これとか、炎症を起こしたあとがみられる…。」
しのぶが胸の下の傷をなぞる。
……確か、桜くんが死んだときの…。
「…それは」
そう。私は、桜くんが致命傷となる攻撃を受けた瞬間、庇おうとして彼を抱き締めた。
その攻撃は彼を吹き飛ばして、お腹に穴を開けた。桜くんを貫通して、私にまで。
ひんやりとした風のようなものを感じた。そう、まるで…あれは氷。
民家の屋根の上で桜くんは戦闘していて、彼を庇うように抱き締めた私は地面に叩きつけられた。その時に骨もきしんで、それでも桜くんを離さなかった。
「……上弦の弐…」
姿も見えなかった。私が駆けつけた頃にはいなかった。消えていた。
「…え?」
しのぶが動揺した。
笑顔が消える。
私はその変化に気づき、話すのをやめた。