第52章 大正“浪漫”ー肆ー
目を覚ました。
見覚えのある天井…。蝶屋敷か。
起き上がると、私はズボン以外服を着ていなかった。
さらしと、お腹に包帯が巻いてあった。…お腹、ざっくりいかれたからなぁ。
ここは病室か。周りのベッドには誰もいない。私だけだ。窓に目をやると、明るい太陽の光が見えた…。
多分、お昼前くらいかな……。
………え。
ええ。
「やばッ…!!」
慌てて飛び起きた。
待って待って。屋敷に無一郎くんいるんだって。今頃あんな無駄に広い場所で一人ぼっちだよ!?…なんてことをしてしまったのかしら。
はぁ、最悪。確か…前世では、無一郎くんとの生活に私の体がついていかずに鬼にやられた…はずだ。
まあ今回もそうなんだけど…。
っていうかそれ以前に、私に迷いがあったことが問題だ。
大正時代にすっかり染まっていた。今この状態が夢なのか現実なのか、わからないくらい。
……いやいやいや、反省会は後!とりあえず無一郎くん!!
私がベッドから立とうとしたとき、病室の入り口が開いた。
「…お目覚めですか、霧雨さん。」
病室の入り口に人が見えた。
「しのぶ……」
懐かしい人物だった。私をとらえる目は鋭いけれど、その顔は笑っていた。
「…あぁ、そう、か。…面倒になったん…ですね。蝶屋敷も、随分久しぶり…です。」
慌てて取り繕うように話した。あぁ、前世の私ってどんなんだったっけ。難しい…!!
「そうですね」
しかし、しのぶは何てことのないように答えたのでホッとした。
「あなたが怪我をするのは珍しいことですから」
「…そうでもないよ」
私は自分の体を見下ろした。
そう。前世の体は至るところに傷がついていた。
私はいつどこでついた傷か、全て言うことができる。