第51章 大正“浪漫”ー参ー
無一郎くんが来て二日目。
まずは物の扱いや日常生活の暮らし方、一般常識などを教えなくてはならない。
「面倒なやつをもらったな。返却しに行くか?」
「…引き取ったからには面倒をみます。それは私の義務であり責任なのです。それに…。」
「それに?」
私は、昔の仲間を思い出した。
「安城殿も、氷雨くんも、桜くんも…私に色んなことを教えてくれました。何も知らない私に、たくさんのことを教えてくれました。」
その時のことが鮮明に浮かんできて。
「何もわからないと言うのは、案外辛いものですから。」
私が言うと、ガラスは何も言わなかった。
記憶を維持させるトレーニングとして押し入れの整理をさせているけれど、無一郎くんには難しいようだ。
そして、ビリッという不穏な音がした。
「あ……」
彼が破いたのは、桜くんの遺品だった。
「……あれ…あれ?」
無一郎くんは形を変えた本に首をかしげる。
「駄目ですよ。紙は柔らかいのですから。」
私が本を受けとる。
…あぁ、そうだ。
無一郎くんが破いて。そのまま燃やして捨てたんだ……。
「…ごめんなさい」
「……これは、もういらないものですから良いのですよ。」
私は無一郎くんにそう言った。
その後、すぐに本は庭で燃やした。
……これで、良いんだよね。桜くん。
私は、空へ向かう煙を見上げた。