第51章 大正“浪漫”ー参ー
「無一郎くん」
彼が来てから私の屋敷はボロボロになっていった。
風呂場も部屋も庭も彼が散らかしまわすので片付けが追い付かない。また、それらの作業で私の睡眠時間が著しく減った。まあ任務に支障はないけど…。
「よく頑張っていますね。」
よくもまあここまでやってくれたなと言いたいくらいだが仕方ない。できないことはできないのだ。怒ったって仕方ない。
「君がここに来て今日で四日目です。」
「……?」
四日目ってわかってないなこの子。
「……ともかく、少々不安はありますがぎりぎり及第点です。ぎりぎりね。」
「…。」
私はにっこりと笑った。
「今日から、あなたに刀を教えましょう。」
無一郎くんが木刀を握る。
「まず、寝ても覚めても刀が握れるように感触を覚えましょう。」
「…こう…ですか。」
「その握り方だと……。」
私はなるべく丁寧に指導した。
刀だけでなく、文字も教え始めた。
「今日学んだことを日記として書いてみてください。記憶が保てなくても日記を読んで思い出せるようにしましょうね。」
無一郎くんは私のいうことにただ従った。たまに生意気を言うくらいで、それはそれで可愛いものだ。
たくさんのことを教えたからか、無一郎くんはその夜すぐに眠った。
私は任務へ向かった。
「おい、動きが鈍いぞ。やはり疲れているんじゃないのか?」
「……!」
ガラスが煽るように言う。
冗談じゃない。
この十数年、疲れる間もなく働いてきたのに。
「あれ?」
私は、動きを止めた。
目の前に鬼がいる。何でもないただの鬼だ。
「……わたし…」
十数年、疲れる間もなく?
違う違う。私は霧雨。本当は大正時代じゃなくて、令和時代にいて。
刀とは縁もなくて。
………さね…み…と…。
頭の中で何かの歯車が噛み合ったとき、私は鬼の攻撃を受けていた。
「ッ!!!」
ガラスの声で我に返り、私は慌てて鬼の頚を斬り落とした。
しかし、その後、カランと刀を落として。
その場に呆気なく倒れてしまった。