第51章 大正“浪漫”ー参ー
「あ」
霞の呼吸の奥義、深奥。
それで気配を探ってある方向に行き着いた。
「や、っば」
私は不死川くんと逆の方向…。
つまり、今来た道を引き返した。
「はあ!?おい!!霧雨さん!?」
「すみません不死川くん!!」
私はそれだけを言って走った。
そうだ。
そうだそうだ。
あの日、今夜、私は。
「鬼を斬った。」
そう、斬った。
こうして走って走って走って走って走って。
「無一郎くんッ!!!!!」
私は無意味に名前を呼んだ。
そう。この日、鬼は、私の屋敷を襲った……。
私が駆けつけた頃には屋敷は半壊していた。
「霞の呼吸、弐ノ型っ!!八重霞ッ!!!」
頚を斬って、刀を地面に突き刺しそれにもたれる。
型で息をする。
汗が庭の土の上にポタリポタリと垂れ落ちた。
「間に、合っ…、た?」
どうしよう。間に合ってなかったら。
そう。あの時も。不死川くんと話して、あそこで鬼の気配を察知して、そこからマッハスピードで戻ってきたんだ。
私がたいた藤の香を、結局夜中に眠れなかった無一郎くんがいじって消してしまった。
ガラスが言っていた鬼は、他の誰かが斬った。何でも隠に回収された負傷隊士がどうにかこうにかやりきったらしい。
つまり、私は完全に骨折り損だったわけだ。
「むい、ち、ろ…くん」
整わない息のまま歩く。
中を見ると、うつろな瞳が見えた。
みるも無惨な室内で、彼はただ呆然と座っていた。
「………!」
その姿に私は安堵する。
しかし、彼からは少しばかり同様が伝わってきた。
「…無一郎くん」
私はそっと彼に歩み寄った。
「……大丈夫。もう鬼はいません。」
ぎゅっと抱きしめて背中をさすってやる。
弱々しい力で無一郎くんは抱きしめ返してきた。
「………すみません、怖い思いをさせましたね。」
私は、いつも遅い。
いつも救えない。いつも、いつも。
……ごめんね、無一郎くん。