第50章 大正“浪漫”ー弐ー
次の日の朝になっても右頬は腫れていて、私は大正時代にいた。
「痛い………」
死んだ者も残された者も、この頬以上の痛みを抱えている。
「………痛い、けど」
私は息を吸い込んだ。
「闘える」
私はとんだ記憶違いをしていた。
初めて目が覚めた日は、無一郎くんを連れ帰る日じゃない。
無一郎くんがお館様の家に来る日で。その日、私はガラスに会議に行くように言われながらも、特別気分が落ち込んでいて優鈴の墓に入り浸っていかなかった。
その次の日のやり直しの会議で、私はお館様に呼び止められるも断り、また優鈴の墓に入り浸る。
その次の日は桜くんの墓に行って、彼の父親と話して、落ち込んでいた気分が少しましになった。
それで、その次の日の柱合会議。
この日だ。無一郎くんを連れて帰るのは、この日。何も間違えちゃいない。何も前世と違わない。
「ガラスッ!!あんたどこ行ってたの!?」
「バカ、烏にも休みくらいあるわ。昨日任務もなかったしいいだろ。」
そう。ガラスは一日いなかった。この日、ガラスは本部に私が鬼になろうとしていることを密告していた。
これを知るのはまだ先のことだけど。
今から二ヶ月後、私は冨岡くんに刺される。
そして黒死牟と闘って死ぬ。
あと二ヶ月。
二ヶ月の命。
それまでに、無一郎くんを鬼殺隊として育てなくてはならない。
確か、今日の柱合会議は…。
前回話し終わらなかったことを話すだけのはず。すぐに終わる。
「ねえガラス」
「あ?」
「私、あなたのこと本当に大好きよ。」
「はあ?」
ガラスは密告のことを隠していた。秘密を抱えていた。
私は何かあるとは思っていたけれど、気づかないふりをしていた。
「多分、死んでもあなたが好きよ。」
「あっそ。でも死ぬなよ。」
「ははッ」
私はおかしくって笑った。
ガラスは罪悪感さえも私に感じさせない。
「でもいつかは死ぬからさ。ガラスは悲しまないでよ」
「お前の墓の上で踊ってやる」
「何それ見たい」
私たちはそんな話をしながら、産屋敷邸に向かうのだった。