第50章 大正“浪漫”ー弐ー
「人間不審になりそう」
私は痛む右頬をおさえながら墓の前に座り込んだ。
「そうなったら君のせいだよ」
彼の墓は桜の木の下にある。今の季節、桜は咲かないけれど。次の季節には必ず咲く。
「まさか、君が秘密を抱えて生きていたとはね。気づかなかった。第六感なんて役には立たない。桜くんみたいに賢い頭がないと無駄みたい。」
桜くんの両親は彼が鬼殺隊に入隊することを良しとしていなかった。結果として、彼は家族と縁を切って死んだ妹のため闘うこととなった。
その数年後、骨となって、家族の元へ私が返した。
彼の父親に殴られた。怒り狂う父親の横で母親が泣き崩れていた。私は彼の遺骨を差し出し、地面に膝と額をつけて、ただ小さく謝った。
この墓を訪ねる前に必ず挨拶に行くが、彼の死からどれほどの歳月がたってもいまだに殴られる。
人の死がえぐった傷口は永遠に消えない。
どれだけ殴っても、泣いても、怒っても、悔いても、叫んでも、桜が咲いても。
「飛ばすよ、桜くん。見ててね。」
私は紙飛行機を飛ばした。
墓の少し上を飛んで、紙飛行機はしばらくして落ちた。
「……あんたも物好きだな。」
それを拾ったのは、先程私を殴った人だった。
「わざわざ殴られに来なくても、黙って来れば良いだろうに。」
「いいえ。何回だって、私は殴られます。」
私はそれを受け取った。桜くんのお父さんは、私の隣に腰を下ろした。
「俺はもうあんたに来てほしくない。ハカナは死んだ。鬼殺隊は、あんたは謝った。もう良いんだ。」
「……。はい。多分、今日が最後だと思います。」
私は紙飛行機をくしゃっと潰して、隊服のポケットにしまった。
二ヶ月後に私は死ぬ。確か、その間一度もここに来なかったはずだ。
「………なあ、霧雨さん…だったか。あんたは何で鬼殺隊をやってる?家族を殺されたのか。」
「いいえ。」
「じゃあ何でだ。その理由は、自分の命より大切かい。」
父親の目が揺れていた。
悩んでいる。この人は悩ましく思っている。
桜くんの入隊を拒み続けたこと。だけれど息子が命を懸けて闘ったことまでは拒めないでいる……。