第49章 大正“浪漫”
その夜は鬼が現れず、私は朝に屋敷に戻って眠った。起きても状況は変わらず、頭を抱えた。
「ガラスー」
お喋りな相棒が見つからない。
薄情なやつめ。
私はため息をついて、押し入れに布団をしまった。
水桶の水で顔を洗い、昨日のうちに作っておいたおにぎりを食べ、歯を磨き、桶で洗濯をして……。
「いや馴染みすぎだろッ!!!!!」
私は洗濯板を投げ捨てた。
大正時代に来てしまってはや三日目。こんなにも適応するか普通もっとパニックになれよ私ッ!!!!!
とりあえず洗濯物を干し、縁側に座り込んだ。
「……そういや、押し入れにお酒入ってたな」
毎日飲んでいた大好物の藤の酒。
鬼になると藤の酒なんて飲めないと桜くんに言われたので、毎日毎日飲んでいた。
それに、鬼にも多少なりとも効果はあったらしく、私の血を嫌がる奴らがいるので重宝していた。
よし、飲もう。飲んで楽しい気分になろう。
私は立ち上がり、押し入れを開けた。お酒はもちろんあった。けれど、一人の人間が過ごすにはあまりにも少ない荷物に目を引かれた。
「うわ、懐かし」
それは、かつての仲間たちの遺品と遺書だった。
氷雨くんは隊服のボタンの入った白い箱。安城殿はたまにつけているのを見たことがある可愛い髪飾り。優鈴は刀の鍔。桜くんは……。
鬼の研究データ。
「……」
そういえば、ろくに読まなかったな。
なんて書いてあったかと、それは忘れていたので桜くんの遺書を読む。
『霧雨さん
無事に届いたかな。たくさんのもの、送りつけてごめんね。これは鬼殺隊には役に立たないものだけど、僕が生きた証として、あなたにあげる。
言いたいことは三つ。
まず一つ。浅草に、“珠世”という女の鬼がいるから、その鬼を訪ねて、僕が死んだことを伝えてほしい。絶対にその鬼を信じること。
二つ。僕の送りつけたもの、目を通しても通さなくても、いつかは燃やして灰にしておいて。多分、産屋敷に見つかるとあなたが怒られてしまうから。
そして三つ目。全てを無責任に放り出してしまうことをどうか許してください。僕は、あなたを残してしまう今となっては、とても心苦しい。
以上。ごめんね、ありがとう、霧雨さん。
桜ハカナ』