第49章 大正“浪漫”
思えば彼の遺品の研究データを読んだことはなかった。
読めば思い出してしまうから。
だけど、今の私なら。
これを受け入れることができるんじゃないだろうか。未練がましく、彼の遺言を無視してまで燃やすこともせず残しておいたのが、今役に立つのでは…。
私は恐る恐る、劣化した紙が綴じられた本を開いた。
中は丸みを帯びた癖のある桜くんの字。
書かれているのは、鬼が美味しいと思う人間の特徴だとか、鬼を藤の花以外で退治する方法とか…。
「確かに、役には立たないか…。」
結局は全て未解決で終わっている。
『新しくこと見つけるより現時点でわかってること徹底的に調べた方がはやい。ので、産屋敷に媚売って色々調べてみた。はい次。』
……書いてる姿が目に浮かぶ…。誰かに見せるつもりはなかったのか、本性がもろに出ていた。ごめん桜くん。私が読んでる。
『とりあえず戦国時代から。まず鬼殺隊の起源を……』
お、少し興味深い。
ごろんと畳に寝転がってそれを読んだ。
びっしりと書かれた文字に、桜くんの熱意を感じる。桜くんは努力家で、本当に、本当に良い子だった。
……ここでは会えない。もういない。
桜くんは、私の目の前で、腕の中で死んでいった。私がもっと速くその場に向かっていれば間に合ったろうか。二人で力を合わせて上弦に勝てただろうか。
そんなことを言っても、もう遅い。何もできない。
『始まりの剣士たち』
そっと文字をなぞる。どんな気持ちでこれを書いていたのだろうか。
桜くんは、自分を弱いと、嘆いていた。
そんなことはない。確かに君は強かったよ。
一度だけ、自分は長生きできるかと聞かれ、無責任なことは言いたくなかったのでわからないと答えた。
きっと長生きできるよと言えば良かっただろうか。
過去の行いを思い返しても、もうどうしようもない。
「つぐ…くに……みちかつ…よりいち」
そこに書かれている始まりの剣士たちの名前を読み上げる。
「え…?」
目を止めて思わず起き上がった。
その文字をなぞる。
始まりの剣士の、最後の一人。
霞柱、霧雨阿国_________