第48章 空模様
次の日。いよいよ立てなくなった。移動は車椅子。それに、ご飯を食べられないからと点滴が始まった。
人生初めてだけど、案外痛くないんだな。
「、明日はお休みの日でしょう。実弥くん一日いてくれるって。昨日はごめんなさいって、謝ってたわよ。」
午前中にやって来たおばあちゃんが言う。おじいちゃんは午後から来るらしい。
私はたった一日ですっかり物言わぬ人形のようになってしまった。
ピッ、ピッ、というノイローゼになりそうなほど聞き飽きたこの音は、微妙な具合で確かに病院に来たときよりもゆっくりになっていた。
誰も何も言わないが、心臓の鼓動は確実に弱くなっている。
「今日は会議で遅くまでいないといけないんですって。わかってあげてね、。実弥くんは仕事も大切なのよ。」
「……」
私は頷いた。
その日の夕方になるかならないかのうちに、私は上手く息を吸うことができなくなった。
昼にやって来たおじいちゃんが青い顔で、手を面白いくらい震わせてナースコールを押していた。
おばあちゃんが懸命に私の名前を呼び続けた。
飛び込んできた先生や看護士さんが、人工呼吸器を私に取り付けた。生まれて初めてなことだけど、苦しくもなく、私は少し落ち着いた。
ひたすら色んな人達が動いていて、先生が私の体を何やら診断していた。
おじいちゃんとおばあちゃんが部屋の隅で立っていた。
「場所を集中治療室へ移動します。」
最後に先生がそう言った。
移動式のベッドにうつされ、そのまま病室を出た。
おじいちゃんとおばあちゃんは青い顔をしていた。おばあちゃんは泣いているようだ。
「れ、連絡しないと」
おばあちゃんは途中で別れて、電話を片手にどこかに行った。おじいちゃんだけついてきた。
しばらくして私は部屋のベッドに移動が完了した。
おばあちゃんも途中で戻ってきた。
二人とも心配そうに私を見ていた。
言いたいことがあったので口を動かす。
人工呼吸器越しは声がくぐもるが、二人とも聞いてくれた。
『ありがとう』
私は、短くそう言った。
二人は何となく意味を理解したのか、泣いて頷いた。