第6章 陰鬱
マンションなんて名ばかりに、アパートと言った方がいいような、古くて狭い部屋。
実弥が防犯を気にする人で良かった。おんぼろの見た目ににつかぬぴかぴかのオートロックの扉を通り抜け、エレベーターなんてないので部屋のある三回まで階段で一気にかけ上った。
一番奥にある部屋が、私たちの部屋。帰ってるかな。いるかな。
不安と期待が入り交じるなか、ドアノブをひねった。
軽くまわったドアノブをひき、ドアをパタリと閉める。
鍵をかけて、チェーンをかけて、その場にずるずると座り込んだ。
…足、痛い。捕まれた手も痛い。走ったから肺も痛い。全部、全部痛い。体中痛い。
「?」
声が聞こえた。
ドアの前にへたりこむ私を、風呂上がりと見える髪の濡れた実弥が見下ろしていた。
「お前、遅くなるにしても遅すぎるじゃねえか。それになにへたってんだァ?酔ったのか?」
実弥がイライラしたように言う。
そのいつも通りの彼に、何だか安心した。
「……おい、聞いて」
勢いのままボロッと涙がこぼれた。
「はあ!?お、おい悪かったよ、言い過ぎたって、おい、おまっ、泣くんじゃねえェ!!!」
「…うん、…うん、泣かない…」
「泣いてんじゃねえか!?」
「ちょっとね、怖いことがあって、ごめんねぇ。」
私、泣き上戸だと思う。永遠に飲んでられるけど、何だか泣き虫っぽくなっちゃうんだよね。
「あ?怖いこと?…話し聞くからこっちこい。いつまでもドアの前にしゃがんでんな。」
「立てない…連れてって…」
「あーはいはい」
実弥が肩を貸してくれる。
「俺明日仕事あるから寝ながらでいいかァ?お前、風呂は明日にして足だけ洗って歯を磨け。んで着替えろ。」
「……うん…うん、そうするね…」
「あー、泣くなよ、クソッ」
私は泣きながらそれら全てをやり終え、ベッドに寝転んだ。スンスン泣き続けるので、実弥がずっとおろおろしていた。