第6章 陰鬱
やっと解散して、帰れると思えばもう終電がなかった。実弥にはタクシーで帰ることを連絡しておいた。…さすがにもう帰ったかな。
「え?霧雨さん同じ方向じゃん。タクシー割り勘しねえ?」
男の子がそう言ってきたので承諾した。
タクシーに乗り込み、実弥の返信を待っていると男の子から声をかけられた。
「ねー、霧雨さんって彼氏と長いの?」
「……そうですね、長いと思います」
「浮気とかしたことない?」
「えっ?」
なんてことを聞くんだ。これでしたって答えたらどうするつもりなのか、しかも聞いてどうするのか。
「な、ないですけど」
「わー真面目。俺彼女いるけどめっちゃ遊んでんだよね。」
それは何の自慢だ。最低じゃないか。
タクシーの中ではもうそれから会話もなく、料金を割り勘して降りた。降りたのはマンションから一番近い駅で、そこからは歩いて帰る。彼は私とここからは逆方向だ。
「じゃあ、ありがとうございました」
そこでさっさと帰ろうとすると、
「ねえ」
「はい?」
呼び止められたうえにがっしりと腕を捕まれて、嫌な予感がした。
「連絡先交換しない?」
「いや」
「たった一人の男にはもったいないよ霧雨さん、すっごく可愛いのに。」
何を言っているんだろう。でも、嘘ではないらしい。
私はそれがわかる。
「ごめんなさい」
短くそう言って、手を振り払って振り返らず全力で走り抜けた。
少しオシャレめにパンプスをはいたから、走りにくかったけど、酔っ払った彼は追い付いてこなかった。
しばらくついてきていた。
気配が後ろからした。
何で、あんなこと言うんだろう。何でついてくるんだろう。
……すごく、怖いじゃないか。