第46章 障壁
気まずいなぁと思っていたら、ぬっと大きな気配があった。
慣れた存在だった。
「何をしている」
その大きな存在に、隣の人は変な言い訳をしてさっさと去っていった。その頃にはソフトクリームも完食した。…後半ほとんど味しなかった。
「お久しぶりです、悲鳴嶼先輩!」
私はその顔を見て声をかけた。向こうもにっこりと笑った。
前世では目が全く見えていなかったが、現世では治療を受けて、ぼんやりとだがほんの少しなら見えるらしい。
治療後に初めて会いに行ったとき、『こんな顔をしていたのか。』と、嬉しそうに言ってくれた。
「あぁ、久しいな。隣に良いか?」
「どうぞ!」
私が言うと、彼は座った。
「…あれ?何でここにいるんですか?」
「………今さらか。」
「そういえば、フレンドリーな人、どっか行ってしまいましたね。」
首をかしげると、悲鳴嶼さんはふふと笑った。
「あれはナンパだ。気づいてなかったのか?」
「エッ。」
「あと私はこの近くに住んでいるので、ただ散歩をしに来ただけだ。」
何と。
悲鳴嶼先輩は実弥と同職だ。…ここ、キメ学から遠いのに。
「遠距離通勤ですね…」
「不死川は近いから羨ましい。どうだ、上手くいっているか?」
実弥と私の仲は知っている。同棲していることも。
そのことを聞かれているのだと思うと、上手く話せない。ぽぽぽと効果音がつきそうなほどすぐに顔が赤くなったので、慌てて顔を両手で覆った。
「えへ」
「……上手くいっているようだな。…指輪をもらったのか。」
「あっ」
…ああまずい。プロポーズされたのまではバレちゃまずかった…かも……?
「心配するな。カナエから聞いただけだ。」
「…え……!!」
「カナエも言いふらしているわけではない。私にこっそり教えてくれたのだ。ともかく、おめでとう。」
そう言われて、また赤くなって、私はありがとうございます、としか言えなかった。