第44章 準備
「いえ、少し寄り道をしただけです。お見かけしたので声をかけました。」
しのぶがカナエとそっくりな笑顔で言う。
「そっか。いいなあ、キメ学からならここ寄り道になるのかぁ…。私の高校、遠くて周りに何もなかったから寄り道なんてしたことなかったよ。」
「ああ、外部進学されたんですよね。高校の頃、姉が寂しがっていましたよ。」
当時は進路をどうするかでかなり自分でも迷ったが、良い選択だったと思う。
「大学は宇髄さんと同じなんですよね。」
「そうそう…って、カナエ全部あなたにしゃべってるんだね。嫌だなぁ、変なことまで言ってないよね、あの子。」
「大学時代はメイド喫茶でバイトしてたとか…。」
「え」
「写真まで送ってくれたので、大切に保管していますよ!」
しのぶがスマホ画面を私に見せる。
バイトをしている大学時代の私とカナエがそこに写っていた。
「まあ内緒にしろと言ってないしね~…。最初は制服恥ずかしかったけど、仕事すっごく楽しいからオススメのバイトだよ。」
「…意外です。あまりこういうことはお好きではないのかと思っていました。」
「えぇ~?でも一回で良いからこういうの着てみたかったんだよ。もえもえきゅんっ!ていうのは、さすがに今やるとキツいけど。」
大学時代かぁ、懐かしいな。やりたいことなんでもできたし。学びたいことも学べたし。
「不死川さんは何も言わなかったんですか?」
「ああ、実弥?それがねぇー…。」
ん??
「え、しのぶ…。」
「あ」
しのぶは一瞬真顔になって口をおさえた。そして、またすぐににっこりと笑った。
「うっかりです。」
……どうやら、私と実弥のことに関してはとっくにカナエが話していたらしい。