第39章 大雨
全くその事を考えていなかったようで、どうしようどうしようとしばらく右往左往していたが、またぴたりと動きを止めた。
「あ、じゃあせめてこの傘使ってください!」
「いや悪いし…。平気よ?走って帰るから。」
「いえ!!この傘をお貸ししたらまたここに来てもらえるでしょう!?」
炭治郎くんが食い気味に言う。
「確かに、返しには来るけど…」
「じゃあ!!ぜひ!!!」
ぐっと傘を押し付けられ、私はそれを左手で受け取った。無意識に、ただ右手にスーパーの袋があったからなんだけど。
「…さん、ご結婚されてるんですか?」
「え?」
「いえ、素敵な指輪だなぁ…と」
彼の視線の先には左手の薬指。
私は苦笑した。
「ううん、まだプロポーズもらっただけ。」
「!そうなんですね、おめでとうございます。」
「ありがとう。」
私は受け取った傘を開き、振り向いて彼に手を振った。
「またね、炭治郎くん。」
「はい!」
大きく手を振り、彼は私を見送った。
私は大雨のなか、軽やかな足取りで帰った。