第39章 大雨
その日、買い物に出かけた帰りに大雨が降ってきた。
天気予報でもそんなことは言われておらず、いきなり降りだしたものでとっても困った。
近くにいた人達は慌てて車に乗り込んだが、徒歩できていた私はどうしようもない。
慌てて屋根のある場所へ逃げた。
そこで水に濡れた体を拭いていると、どうやらそこがパン屋さんの屋根の下ということに気づいた。
こんなところで雨宿りしていたら邪魔になるだろうから、再び雨の中を駆け出そうとした時。
「待ってくださいッ!」
チリン、とドアベルのなる音がした。振り返れば、パン屋から人が出てきていた。
「あの、もし傘がないならこれを………」
その店員は親切にもビニール傘を持っていた。
彼は私の顔を見るなりぴたりと動きを止めた。
私はその顔と、その耳飾りを見て、固まった。
「……炭治郎くん…」
彼は私が名前を呼んだのを聞いて、顔を輝かせた。
「さん…!!やっぱりさんだッ!!!」
目の前の少年…炭治郎くんは目に涙をためて、私に詰め寄った。
「嬉しいなぁ、俺まさかまた会えるなんて思ってなくて…あ、俺…今はパン屋なんです。」
「へえ…っていうか、その…何気に話し進んじゃってるけど、記憶はあるってことでいいのね…?」
「?記憶がないとかあるんですか?」
あっ。君も変わってないね。ハーイ。
首をかしげる瞳は純粋そのもので、それ以上は何も言わなかった。
が、炭治郎くんは驚いたように声をあげた。
「…っていうかびしょびしょじゃないですか!あぁ、中に入ってください!お風呂お貸しします!」
「ええっ!?いやいやいやそれは…!!」
「このままじゃ風邪を引きますよ!それに話したいこともありますから!」
そうやって店の中に入れようとするので私は慌てて断った。
「無理だよ!炭治郎くんは私を覚えてるかもしれないけど、君の家族は私を知らないでしょ!!」
私がそう言って、やっと彼は止まってくれた。