第38章 従兄弟の記憶ー怒りー
すぐそこにあの子はいました。
「様」
声をかける頃には彼女の足元で鬼がハラハラと消え去っていました。
「氷雨くん、終わりました」
「……そうですか。ならば、行方不明者を探さなくては…。」
「いえ、不必要です。もう誰もいません。」
彼女がきっぱりと言いました。
私は首を横に振りました。
「まだ何も終わっていません。」
彼女は不思議そうに首を傾げます。
「一つ教えましょう。あなたのその何かを感じる力は、絶対ではありません。確かな情報は自分の目と耳…そして、積み重ねた鬼狩としての経験から導くのですよ。」
「……?」
「理解が難しいでしょうが、私は何も終わっていないと思います。ゆえに残ります。あなたは働きを見せてくれましたし、本部に戻って報告を…。」
そう言いかけたところで、ぐっと隊服をつかまれました。見下ろすと、彼女は首を横に振っていました。
「残ってくれるのですね。」
「はい。」
私は頷き、狭い山道を歩きだしました。
何分かそうして、ぴたりと動きを止めました。
「氷雨くん、どうしたのですか」
「静かに」
私は彼女の手を引き、背後に控えさせました。
ザワザワ、と木葉のかすれる音、ひゅるりと吹き抜ける風。…空気が変わりました。
「……………迷いこんだのでしょうか」
景色は何も変わりません。けれど、先ほどと明らかにいる場所が違います。
「氷雨くん」
「はい」
「あっち」
小さな、まだ可愛らしい指である場所を指さすので、私は頷きました。
「ええ、私もそう思います。」
そちらに何かがいるのは私にもわかったので、向かいました。