第37章 再構築
しん、と静まり返った。
思考が完全に停止してしまった。
………完璧に…何か話すタイミングを逃した。
その時、私のスマホが鳴った。無視しようとしたけど、実弥が出ろと言わんばかりに顎を動かすので、スマホの画面を見た。
実弥が私から目をそらして空を見上げる。
ああ、何で通知切っておかなかったんだろう。けど、まさか予想していなかったし。
スマホの画面には、春風さんの名前があった。
『氷雨春風』と表示された名前を見て、私はやっと止まっていた思考が動き出した。
『あなたはどうなんです?』
春風さんの言葉が頭をよぎる。
それをきっかけに春風さんと話した内容が頭に流れ込んできた。
……そうだ。
「ありがとう…!」
誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやくと、着信音がやんだ。私が切ったわけではない。切ったのは向こうだ。
春風さんのことだ。全てを見越して今かけてきてくれたのだろう。頭が真っ白になった私に、しっかりしろと言っているような気がする。
電話に出ない私を、実弥が振り返った。
私はぎゅっと拳を握りしめた。
「私、料理できないよ!!」
誰もいないのをいいことに、叫んだ。
「あと、ポンコツだし、マイペースだし……子供産めないし、家族関係もボロボロだし…!!!」
実弥が目を見開いている。
「それでも………君は、後悔しないの…?」
言い終わるか終わらないか。
私の言葉に被せるように、実弥が抱きついてきた。
「しねェ」
実弥の弱々しい声がした。それと対象的に、力がとても強くて。
「絶対、しねェ」
苦しいとか、痛いとか、普段の私なら言うけど。
今だけ。
今だけは。
彼の背中に手を回して。
「本当……?」
「本当だ」
「本当の、本当?」
「あぁ」
「………」
私は実弥から体を離した。
「私、結婚、したいです」
にこりと笑って、はっきりと答えた。
実弥も笑って、ありがとう、と言った。
「やっと渡せる」
そう言うと、実弥は見覚えのある箱を差し出した。
中に入っているものも、やっぱり見覚えがあった。
「ありがとう、ごめん、ごめんなさい、ありがとう、大好き」
私は再び抱きついた。
実弥は何も言わずにぎゅっと私を抱きしめて、指輪をはめてくれた。