第37章 再構築
「何をしているのですか?」
春風さんがにこにこ笑う。
「何をしているのですか?」
これで五回目だ。玄関の前にたって、鍵を握りしめたまま私は動けずにいた。朝だから鍵は閉めているとメッセージが来ていた。
春風さんは荷物を持ってくれていて、実弥に一言挨拶してから帰ると言うのでついてきた。
しかし、私が玄関でぴたりと動かなくなったのでこうなっているのだ。
「いや、いやー、よく考えるとこんな格好、彼の前でしたことがなかったわけですし、な、なんか、すごく、緊張して、あの、やっぱり、や、やめていいですか」
「もう…まだそんなことを言いますか。お貸しなさい。」
春風さんは私から鍵を奪った。
「さして、ひねって、開ける!!それだけです!!」
何のためらいもなく人の家の鍵を開け、私の背中を押した。
久しぶりの我が家…懐かしい匂い。
「にゃん!!」
鳴き声がしたと思えば、おはぎがドアの前にいた。
私の足にすり寄ってくる。
…実弥の姿が見えない。
「すみませーん!実弥くん、ただいまお連れしましたよ!!」
「ちょっ、春風さん!」
そして奥に向かって叫ぶ。がちゃりと実弥の自室が開いて、私服姿の実弥が出てきた。…普段あんまり着ないような、フォーマルめな服を着ていた。
「すんません、春風さん。迎えに行けなくて…。」
「いえいえ、独り暮らしのような生活ですから楽しかったですし、長らく彼女をお借りしてしまったので当然ですよ。」
私は隣に立って二人の会話を聞いていた。
「……じゃあ。」
春風さんは、最後に実弥の肩を叩いた。
「が、ん、ば、っ、て」
天使のような満面の笑みを浮かべて春風さんは出ていった。私が手を振る隣で、実弥の緊張度が急速に上がっていくのを感じた。
「お前、あの人からなんか聞いた?」
「え?何のこと?」
「………いや、何でも。あとそれ、似合ってる。」
くるりと振り向き、適当といった感じで私を褒めた。
でも、私にはそれが本気で、心を込めて褒めてくれたことがわかったので、思いっきりその背中に抱きついた。
そして怒られました。全く、素直じゃないんだから!