第37章 再構築
ハルナちゃんは嬉しそうに私の化粧と髪の毛のセットをした。
「霧雨さん、いっつも面白くないオーダーしかしてこないから、今日は思い切りできて楽しいわ。」
「面白くないって…」
「お店ではカットだけしかさせてくれないじゃない。それに、一年間に数回しか来ないし。お店の人たち霧雨さんのこと狙ってるから大変なのよ。」
「…?」
「霧雨さんがモテるってこと。」
私がはてなマークを飛ばしていると、ハルナちゃんはくすりと笑った。
「でも、霧雨さんは彼氏さんが大好きだもんね。」
「……否定はしないけど…。」
「だから、彼氏さんの前では可愛い霧雨さんでいなきゃ。好きな人にときめきをあげるのも素敵なことよ。とっても。」
私は彼女から感じる感情に思うことがあって、聞いてみた。
「ハルナちゃんは好きな人がいるの?」
「……え?」
「あ、いや、そんな気がしたの。」
ハルナちゃんは私の第六感については知っている。だからか、ポッと頬を赤く染めた。
「まだ内緒。お兄ちゃんには言わないでもらって良い?」
「うん、もちろん。」
前世で鬼により妹を亡くしてしまった桜くんは、妹の成長を見たかったとずっとこぼしていた。いつか結婚して、幸せになる姿を見たかったと。
その姿を見る日も、遠くないのかもしれない。
「ま。私のことよりも今日は霧雨さんのこと。このリップ、すごく人気爆発してるんだよ。」
と、彼女は私の唇にリップを塗った。
普段在宅ワークで外に出ないからほぼほぼスッピンだし、化粧するにしても唇は何もしない。
「確かに、可愛い色だね。でも派手すぎない?」
「いいのいいの!!あのね、これね…。」
まるで悪巧みをするように、ハルナちゃんはこそっと耳打ちしてきた。
「『キスしたくなるリップ』って言われてるの」
「えッ!?」
「ふふ、霧雨さんにプレゼントしようと思って持ってきたの。春風さんから話を聞いて、これしかないって。」
「…春風さんはどんな話をしたの…」
「春風さんが間違えることってないもの。……頑張ってね、霧雨さん。」
なぜか応援され、薔薇色のケースのリップを渡された。
私は首を傾げながらも、黙ってそれを受け取った。