第36章 夜の夢ー自刃ー
「あれから…あの日から今日で半年が過ぎた。」
若君が話す。
私は運ばれた水に口をつけた。半年間も飲まず食わずで眠り続けたようだ。
「縁壱には…自刃をさせなかった。鬼殺隊から去るように…私が命じた。お前が襲われていた時、鬼舞辻無惨と対峙していたんだよ。…しかし、逃してしまったようで…それに関しても、処罰しないわけにもいかなかった…すまない、阿国。」
私はそれを聞き、尋ねた。
「ならば、縁壱さんは生きていらっしゃるのですか!?」
「あぁ。……だけれど、縁壱は…お前を亡くなったと思っているはずだ。皆も、阿国はもう駄目だと口々に…。楽にしてやってはどうかとまで言い出してね。」
若君…いや、今となってはお館様だ。先代はもう…いらっしゃらない。生まれてわずか六年ほどの子供に計り知れない重荷を感じる。
「良かった、目覚めてくれて、生きていてくれて本当に良かったよ、阿国。」
お館様の気持ちが私に流れ込んでくる。本当に心から案じてくれていたのがわかる。
「………ですが…私はもう、何もできませぬ」
「阿国…?」
「わかるのです、もう、私は刀を持ち戦うことができませぬ。……呼吸が、使えないのです。」
私がいうと、お館様はうつむかれた。これは予想できたことだろう。わかっていたのだろう。
「縁壱さんが責任を負われるのであれば、この阿国も背負います。」
「阿国…」
「私です、私なのですお館様。私は師範のお側にいました。あれほどお側にいたのです。阿国にはわかっていたのです。師範が、師範が何かに虚しさを感じられていたことを。」
それでも、私は。師範の奥底に眠る優しさだけを信じた。
信じて、しまった。
「私も処罰してくださいませ、この阿国が悪いのです、お側にいながら、何もなしえなかった、この阿国が。縁壱さんは鬼殺隊に必要なお方です。あのお方は何も悪くはないではありませんか。」
「阿国、そんなに話してはいけない、体に毒だ…。それに、もうどうしようもない。残された剣士たちにこともある。すまない、阿国。」
「ならばこの私に自刃を命じてくださいませ、私は生きていても仕方のない人間にございます。」
泣いたってどうにもならいのに、私は涙を流して懇願した。