第36章 夜の夢ー自刃ー
痛い、
からだぢゅうが、いたい
「…あ…ぁ」
喉が乾いた。カラカラだった。お腹も空いている。
体が動かない。痛くて痛くてたまらない。
「し…はん…」
こんなことをしている場合ではないのだ。
はやく、はやく追いかけないと。師範が遠くへ行ってしまうから。
「阿国ッ!!!」
部屋の襖がパン、と音をたてて開いて、若君が姿を現した。畳の上を這う私のもとにそっとしゃがみ、私を見下ろした。
…なぜ若君がここに…というか、ここは…。なぜ私は布団で寝ていたのだろう。なぜ刀を握っていないのだろうか。それに、右側が全く見えない。右側の音も聞こえにくい。
「若君…お怪我は」
「怪我…?怪我をしているのはお前だよ、阿国!あぁ良かった……!!生きていてくれて、本当に、良かった……。」
若君がその大きな幼い目に涙をためる。
「……若君…師範…師範は……。止めなくては、奴を、止めなくては。」
「…阿国……?」
「刀…刀はどこですか、私の刀は…あぁ、はやくしなければなりませんのに、私の刀をどこへやってしまわれたのですか。」
「阿国、お前…。」
立ち上がろうとした。
左手を地面について、起き上がろうとした。
しかし。
ガクン
手応えはなく。
手が畳についた感覚がない。腕がうまく動かない。なぜ?なぜだ?
「阿国、動いてはいけない、お願いだ、まだ動かないでおくれ」
「……ぁ…手…私、の、て」
左手がない。
どこにもない。
二の腕から先が見えない。
まさか。
「目と、耳…」
「……もう、それは治らないんだよ阿国…右目と右耳は、もう。」
なら、それならもう。
「……全て…終わってしまったというのですか…」
私が絶望した。
なら、師範は、もう既に鬼に…?
「………縁壱が、責任をとって自刃するようにと皆が責めたよ…」
「より、いち、…さ……んが…!?」
あれほど師範を慕っておられた縁壱さんが受けた心の傷やいかほどか。
そんななか、皆から責められ…自刃を…!?