第35章 一休み
体だけでなく顔も施術してもらって、エステティシャンの人は帰っていった。お金はもう春風さんが支払ったとか…。
いくらだったかと彼に聞くと、『氷雨家と契約している方なのであなたに払われると何かとややこしくなります』と返されました。お金持ちめ。
そして春風さんが帰宅すると、つやつやてかてかになった私を見て手を叩いた。
「あなたはエステなんてお嫌いかと思っていたのですけど、良かったようですね。」
「…お陰さまで」
「じゃあ明日も頼みますね」
「えっ」
「母が契約だけして全然家に帰ってこないので、正直相手方に申し訳なく思っていたのですよ。あなたさえよろしければ続けていただくのが助かるのですが。」
そう言われると断りにくい。春風さんはにこにこと笑っている。
「ところで、あなた実弥くんとは連絡とってます?」
「え?」
「きっと心配している頃かと…」
彼がそう言うと同時に、私のスマホがなった。
「ほら」
春風さんがスマホを覗き込んで笑う。
確かに実弥からの着信だった。こわっ。この人本当にこわっ。
「そっか、仕事が終わる時間……って、電話に出て何て言ったら良いんですかね!?」
「まあそんなに元気でしたら風邪は通じないでしょうし…。」
「……もとはといえば春風さんが籠城しろって言ったんですよ…。」
「………。」
彼はしばらく考えたあと、こう言った。
「よし、私が彼に話そう。今ここであなたを帰すとまた同じことの繰り返しになる。」
「…はい?…春風さん、また何か……。」
「ええ、ちょっと感じるものがあるのですよ。」
私がスマホを春風さんに渡すと同時に、着信音が止まった。
「「あ」」
二人で顔を見合わせた。
………長く話しすぎた。